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勢いに任せたやつ 2

「なんか、こういう場所落ち着かないね」

2話 1個

苺は、少し笑いながらシキアの隣に腰を下ろした。
シキアは苺の言葉を聞きながら
落ち着かないのは、ここがスラムだからということだけではない、と彼に言いたかったが、寸での所で止めた。
苺は、彼へ何故ここへ居るのかという詮索はしなかった。
そのことが、シキアにとってひどく暖かかった。
彼が暖かい無関心を与えてくれるのなら、
俺もそれに応えるべきではないか。
シキアはそう思ったのだ。
しかし、シキアはどうにも苺のような
無関心をよそおえるか不安だった。
苺のそういう面には、敵う事が出来ないという事を
苺と常日頃行動を共にしていたシキアだからこそ痛感していた。
「俺がここにいるってよくわかったな」
シキアは目の前の廃屋を見つめながら、
なるべく固くない声で言った。
今まさに発した言葉を、スラムの静寂はすぐさま飲み込んでいった。
一言がこんなに重たいということを、シキアは初めて知った。
魔法局もスラムもどちらも一様に静かな場所であった。
だが、入り組んだ路の続く魔法局の静寂は、
その建物で行われている目的の荘厳さ故のものであった。
スラム街の静寂は、魔法局の荘厳さとは違った、
哀愁や、無慈悲さ、凄然とした自由を帯びているようにシキアは感じた。
そこには彼がいつも向き合っている書物や
あまつさえ、言葉すら無意味な物になってしまう。
シキアはそのことを、そぞろ寒くも感じたが、
同時に、身軽にさせてくれる涼しさにも感じた。
何故今になって、気付くのだろう。
何故今になって、感じてしまうのだろう。
スラムの殺伐とした広場は
港街イルファーロのそれとは似ても似つかない。
ましてや、首都アイトックスのそれとは
到底比較することすらできないだろう。
俺は本当に遠くへ行ってしまうのだ。
シキアは左にある枯れた噴水へと視線を流しながら
もう飲み込まれてしまった自らの声をかきあつめようとした。
そうでもしないと、彼は今まで以上に深い水底へ
その体重を預けそうになってしまうからだった。
今の彼には、思考に息継ぎをさせるきっかけが不可欠だった。
シキアの質問に苺はどう思ったのだろう。
苺はまだ何も答えない。
二人の間は、人一人も入れないくらい小さいものだったが
今になって、シキアはこの隙間にも風が通っていることを知った。
その隙間は、いつから開いていたのだろう。
シキアの小さな疑問に噴水の上の烏は
答える事など出来ないくせに、かぁかぁと鳴いた。
あざ笑っているように聞こえた。
途端にいいようにないもどかしさが胸を占めた。
小さな息しか吸えなくなっていた。
シキアは自らの異変に多少狼狽したが
僅かにでも苺には知られてはいけないと考える部分が
まだシキアには残っていた。
そのことは、彼にとって考えるというよりも
むしろ悟ると言った方が自然なように思えた。
シキアは自己防衛のためか、背筋が幾分か曲げた。
その姿勢はうなだれたようにも見えた。
今きっと苺に、望んでいない姿を見せている。
シキアはそう感じた。
同時に苺にほんの少しだけ期待を抱いた。
もしかしたら、気遣いの言葉をくれるかもしれない、と。
その言葉が、彼らの間に揺るぎを与えるのは明白だった。
シキアにはその揺らぎが恐ろしかった。
いつまでもこのスラムで静寂を保っておきたかった。
そうすれば、華やかな出世話など忘れられると思った。
シキアはきらびやかな首都になど
まるで心は躍らなかった。
また、苺と共に死線を潜り抜けたかった。
もっと詰めていくと、彼は苺を
傍らで感じていたかった。
シキアにとって苺との思い出は
鋼鉄の引き裂く音と、錆びた匂いのする
赤い飛沫など、それだけだった。
これが一体何の意味を成すのか。
今となっては、それらは虚飾に思えた。
それ故に、腐臭漂うスラムを僅かに揺らす言葉は
僅かばかりの憂いと、気遣いをナイフのような鋭利さを持ち、シキアへと届くのであった。
「俺は、シキアと結構な付き合いだったから」

2話 2個

まだ続く
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